なくようぐいす


仕事で後輩を連れて栃木県大田原市へ。
地図を見ながら取引先へ向かう道中の路傍に
「五つ星 源泉かけ流し 与一の湯」
という看板。
すでに旅気分の後輩がそれを見つけて
「いいなあ。かけ流し。温泉行きたーい」
与一って、那須与一か。そういえば那須高原がすぐ近い。
仕事で来るところじゃないよなあと、いっそ青空を恨めしく思いつつ、
「那須与一の故郷はこのへんなのかな」
とつぶやいたら、後輩がおおきな目をまあるくした。
「それは有名なひとですか?」
・・・たぶん日本人の多くは知ってるなあ。
「平家物語に出てくるひとだよ」
「あ、もしかして耳取られちゃったひとですか?」
「・・・それは、」
耳なし芳一。
「あ、一字違いか」
大違いだ。
「源氏の武士で、舟の上の扇の的を、馬の上から弓で射たひと」
「すごいっすね」
そうだね。
すこし考えていた後輩は、唐突に
「クレマチスさん、源氏物語にハマったことありますか」
この子はきっと何かを間違えてる、と思ったが、その後は光源氏の遊びっぷりや、薫香で情緒まで表現する紫式部のすごさについて、つつがなく話が進む。
商談を終えた帰り、昼食をとろうと立ち寄った道の駅にも与一の像。
弓道をやるひとたちが詣でる神社も近くにあるそうだ。
後輩は道の駅の農産物直売所でさらにテンションを上げ、茄子とゴーヤを購入。
はしゃいだところにご飯を食べて疲れたらしく、帰りの車中は助手席で爆睡していた。
そういえば今年は源氏物語千年祭だとか。
平安は遠くなりにけり・・・。
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